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自己啓発セミナーで死者、法廷で明かされるASK社の実態(下)

前回のつづき】2010年1月、東京都府中市で自己啓発セミナー会社「ASKグローバルコミュニケーション」(現ASKアカデミー、東京都豊島区、代表=松田友一氏)が開催したセミナーで、マルチ商法会社「ニューウェイズジャパン」(NWJ)(神奈川県横浜市神奈川区、当時の代表=戸田廣美氏)のディストリビューター(販売員)だった男性(当時26歳)が死亡。自己啓発セミナーとマルチ商法の関係を示した前回に続き、男性が亡くなった状況について、裁判における両親とASK側の主張を整理します。


■変遷する「時刻」

 ASK側は、訴訟の中でワンダーランドと一体となってセミナーを主宰していたとする両親の主張を否認。また男性の死因は「病死及び自然死」でありセミナーとの間に因果関係はないと主張し、全面的に争う構えを見せています。

 また、男性が倒れて動けなくなった後のASK関係者らの対応や、救急車を呼ぶまでの時間についても、両親の主張と被告側の主張が真っ向から対立しています。

 両親はセミナーを受講していたメンバーの証言などから、男性が9時半か遅くとも10時前には踊り始め、少なくとも30分踊った後で倒れ、消防署への通報は1時間近く後の11時27分、救急車の到着は11時33分だったと主張。動けなくなって踊りのグループから離れた場所に連れだされたまま、男性が放置されていたとしています。通報時刻と救急車到着時刻は、消防署の記録に基づいています。

 一方ASK側は、訴訟になる前に両親に提出した報告書などで、男性が踊り始めた時刻を10時35分、倒れた時刻を10時45分と説明。「踊り始めてから発症までに要した時間は11~18分」だと主張し、倒れた後の男性が「白目を剥いた」ので、すぐに119番通報をしたとしています。

 しかしASKの松田代表は訴訟の陳述書で、男性が踊り始めた時刻を「10時45分」に変更。その陳述書を元に計算すると、踊り始めて6~7分後に男性が倒れ、その7~8分後以降に「白目を剥くような様子」になり、セミナールームの外に運び、男性が白目を剥いたので消防に通報するようホテルのフロントに連絡したとのことです。11時前後には男性が倒れて白目を剥き、消防への通報はそこからさらに時間が経っていたことになりますが、松田氏は通報した時刻については陳述書に記載していません。

■かみあわないASKとワンダーの主張

 ASKは訴訟前の段階の報告書では、11時頃に救急車が到着したと報告しています。ところが両親が病院から取り寄せた男性の医療記録によると、救急車で運び込まれた際に男性に同行していた「ワンダーランド」の嶋村吉洋代表が医師に対して行った状況説明が、このように記録されています。

「会社の研修にて合宿中。本日2日目にて、11時ころからエアロビクスを行っていた。20分ぐらいして座り込み、気分が悪くなった様子だったので担当者が廊下に移動させた。その後、反応がなくなったため救急要請」

 ワンダーランドの嶋村代表は医師に対して11時頃に男性が倒れたと説明しているのに、ASKの報告書で松田氏は11時頃に救急隊が来たことになっています。まさか松田氏は、男性が倒れる前から消防に通報しいたとでもいうつもりだったのでしょうか。

 ASKが両親に送った報告書は事実に反しており、また嶋村代表が医師に語った内容は、松田氏が両親に送った報告書にあった時刻とも、裁判で松田氏が主張している時刻とも、かみあいません。

■受講生が倒れたのに30分以上も通報せず

 両親とASK側の主張は、2~3時間の間に生じているほんの数十分の差です。しかしこの時刻の差は、人の命がかかった場面でASK側が責任ある対応をしていたのかどうかを判断する上で、非常に重要です。男性が倒れた時刻が長ければ長いほど、ASK側が消防署に通報せずにいた時間が長かったことを意味するからです。

 両親側の主張によれば、男性が倒れてからASKが消防に通報するまで最大で1時間半、少なくとも1時間の空白があり、現時点でのASK側の主張ですら、通報まで30分近い空白があることになります。受講生が「白目を剥いて」倒れ、その状況を判断できる医師などがその場にいない状況です。ここで30分もの空白があるというだけでも、セミナー主催者の責任上いかがなものかという気もします。

 自己啓発セミナーで受講生は腕時計を外し部屋には時計もない場合が多く、受講生はセミナー中に時間の経過を知ることができません。これはASKのセミナーでも同様だったようで、目撃者の証言からも、「間違いなくピッタリこの時刻だった」という特定はできていません。男性が倒れるまでに、どのようなセミナー進行だったかという記憶から類推しているため、その証言にはどうしても幅が出てしまいます。

 しかし主催者であるASK側が明確な時刻を示せないでいるのは、不可解としか言いようがありません。ASKは、自分たちが時間管理もできないようないい加減なセミナー会社であると、裁判所に認めてもらいたいのでしょうか。それとも、時刻を開示したくない理由でもあるのでしょうか。

■「真実を知りたい」と母親

ASK社のパンフレットより。「求めなさい!与えられます!」と書かれている。しかし同社のセミナーで死亡した男性の両親は、詳しい説明を求めても与えられなかった。
 ASKは男性の死亡直後、両親に対して経緯の説明をまともにしていなかったようです。亡くなった男性の母親によると「説明をするようにとの内容証郵便を送ったら、弁護士を使って調査した報告書が送られてきた」といいます。これが前述の報告書ですが、その内容は、救急車到着時刻が事実と違うなど、お粗末なものでした。

「松田氏とは電話でも話しましたが、グランドルール(セミナー内でのルール)だからとか、お金を払っていない(受講生ではない)人に教えられますか?などといって発言を繰り返して、セミナーの内容を教えてくれない。当時の息子の様子についてすら、プライバシーだからなどと言って詳しいことを話してくれない。私たちの息子のことなのに、何がプライバシーなんですか? 裁判を起こせば、彼らもしっかり説明してくれるのではないかと思ったんです。裁判だから、弁護士に頼んで賠償額を算出してもらって請求していますが、お金が欲しいのではないんです。息子がどうして死んだのか、それを知りたい」(母親)

■謝罪もせず「問題にしてない」と言い放つASK松田代表

松田友一代表(ASK社のウェブサイトより)
 男性の両親は、保護責任者遺棄致死罪にあたるとして松田氏を含めたASK関係者らを刑事告訴しており、4月下旬までに府中署に受理されています。本紙・藤倉の取材に対して、松田氏はこうコメントしました。

「刑事告訴については、(男性が死亡した)当時、事件性なしということで終わった話。私の方では問題にしていない。民事訴訟については、係争中なので具体的なことは申し上げられません。インターネットなどでこのことが書かれて、当社としては風評被害を被っています」(松田氏)

 実際にASKのセミナーで男性が死亡し、裁判になっている。それは「事実」であって「風評」ではないのでは?との藤倉の問いには、こんな答え。

「亡くなったのはセミナーの中ではなく、病院ですよ。セミナーで亡くなったのではない。その辺りをあなたと議論するつもりはありませんが」(松田氏)

 男性の死亡が確認されたのは、救急隊到着から約1時間後です。ただし両親は訴状で、救急隊到着の時点で男性は「意識は刺激に対して全く反応しないJCS300で、呼吸をしていず、脈拍取れず(血圧ゼロ)であり、この時点で死亡していた可能性はぬぐえない」としています。

 男性の母親によると、ASKの松田代表からこれまで両親に対して謝罪の言葉は一度もないとのことです。

 明日23日、大阪地方裁判所1010号法廷で10~17時、ASKの代表・松田友一氏と取締役・加賀洋子氏、株式会社ワンダーランドの代表・嶋村吉洋氏への尋問が行われます。受講生の死亡について自己啓発セミナー代表者らが何を話すのか、注目されます。【了】

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